【保育事業者 必見!】「経営情報の見える化」とは?

令和7年度より、「保育所等における、新たな継続的な経営情報の見える化」(以下「経営情報の見える化」)が始まります。この制度の施行日は令和7年4月1日であり、また、報告期限は事業年度終了後の5ヵ月以内であるため、多くの園では、令和7年8月末日までに報告をする必要があります。今回は、この「経営情報の見える化」について解説をします。
1.話の経緯は?
令和6年9月にこども家庭庁成育局保育政策課より公表された「保育所等における継続的な経営情報の見える化について」の資料を見ると、今回の整備にあたり、以下のような議論がされていたことが分かります。以下の文言は、資料からの引用となります。
① 経緯
「処遇改善を行うに当たっては、医療や介護、保育・幼児教育などの各分野において、国民の保険料や税金が効率的に使用され、一部の職種や事業者だけでなく、現場で働く方々に広く行き渡るようになっているかどうか、費用の使途の見える化を通じた透明性の向上が必要。・・・(略)・・・」などの基本的な考え方が示された。
② 現行制度(当時のもの)
子ども・子育て支援情報公表システム「ここdeサーチ」 を整備して、利用者の施設等の選択に資する情報をインターネット上で検索・閲覧できる環境を構築してきたところである。
③ 継続的な見える化の意義
更なる処遇改善等を進める上で、費用の使途の見える化を進めることが重要である。
また、保護者が適切かつ円滑に教育・保育等を子どもに受けさせる機会を確保するためには、施設・事業所ごとの職員の処遇等に関する情報が公表されることが重要である。
④ 制度改正
都道府県知事には、特定教育・保育提供者から報告された経営情報を公表することを求める。
園の情報をHP上で一元的に管理して、保護者の“保育園選び”に資するという目的のみならず、国民の税金が財源である園の費用の使途を詳らかにする点など、 広い目的をもって、今回の「経営情報の見える化」が導入されたことが読み取れるかと思います。特に、この『園の費用の使途』に関しては、処遇改善等加算や人事院勧告を念頭に置かれていることもうかがえます。
2.何が公表される?
各園からは、「ここdeサーチ」を通して、園の情報の報告が必要になります。ただし、すべての項目について、施設ごとに公表がされるわけではありません。中には、グルーピングがされて公表されるものもあります。具体的には、次の通りです。
● 給与総額に占める職種間の配分割合
● 基準上の配置と実際の配置の比率
● 配置人員の構成比(職種別、属性別等)
● 総収入に占める主要な支出区分の割合(人件費、収支差額等)
● 人件費比率
● 職員配置状況
グルーピングの項目に関しては、施設類型や、法人形態、地域、規模等に応じて集計・分析がされ、平均値や、中央値、時系列推移などの状況について公表がされます。公定価格の改善をはじめとする政策検討に活用される予定です。
一方の「個別の施設・事業所単位での公表」については、各園の状況が明らかになる点からも、特に皆さんが気になる項目かと思います。こちらについても詳細を確認しましょう。
必須記載 | 任意記載 | ||
① モデル給与 の公表 |
対象となる職種 | ◆保育士等の幼児教育・保育に直接従事する常勤職員(経験年数、役職等も明示) | ◆その他職員 |
対象となる事項 | ◆基本給、手当、賞与等や、月収と年収の目安 | ◆「給与決定方法」「賞与支給基準」「時間外手当」「退職手当の取扱」「福利厚生に関する事項」 | |
① 人件費比率 |
◆狭義の人件費比率 (※会計基準上の人件費、派遣職員経費、法定福利費の合計。) |
◆広義の人件費比率 (※「狭義の人件費」の他、福利厚生費、研修研究費、職員採用経費など、法人が「広義の人件費」と判断するものの合計。) |
|
③ 職員配置状況 | ◆基準上の配置と実際の配置の比率 |
「個別の施設・事業所単位で公表」される事項については、『必須記載』の項目と『任意記載』の項目があるのが特徴です。『必須記載』の項目について、たとえば「①モデル給与の公表」に関しては、基本給や手当をアップした上で、モデル給与となる月収と年収の目安の見栄えを良くすることも考えられます。『任意記載』の項目については、公表自体が任意であることからも、各項目に関して園として公表するかどうか、ひいては近隣園と比べて見栄えの良い項目なのかどうかを比較検討しておく必要があるものと考えます。
3.「経営情報の見える化」にどう備えるか。
(1) 経営情報の見える化により起こること
今回の「経営情報の見える化」に伴い、次のような事態が起こるのではないかと推測します。
-
賃金の比較が容易になることで、職員の人材流出のリスクが高まるのではないか。
結果、比較的容易に採用ができる園と、採用が困難になり職員不足に陥る園とが出てくるのではないか。 - 各施設が、賃金改善を積極的に行うのではないか。その上で、中には、無計画な人件費の引き上げを行ない、経営を圧迫するような事例も出てくるのではないか。
- モデル給与は、実績値ではなく計画値で良いとされているものの、公表内容と実態が異なる園があった場合には、職員からの不満が噴出するような事例も起こるのではないか。
- 「職員が多い園が、良い園」「賃金が高い園が、良い園」という、短絡的な風潮が広まるのではないか。
(2) 経営情報の見える化に向けて、準備しておかないといけないこと。
上記(1)の事態を予測すると、対応しないといけないことも見えてきます。
- 年度末賞与など、制度上では、支給は流動的・変動的であるものの、実質、毎年固定的に支給しているものについては、制度上でも月額賃金や一時金に組み込むなどして、モデル給与の見栄えをよくしてはどうか。
- 近隣園の、求人情報や掲載されたモデル給与と比較して、自園のモデル給与が地域相場に即しているかを定期的に確認する必要があるのではないか。
- 決算状況などから、今後5年程度の収支見込みを立てて、人件費比率が何%程度であれば、ひいては、どの程度賃金を改善しても経営が維持できるのか、把握する必要があるのではないか。
-
職員に対し、自園の処遇改善や人事院勧告の支給の考え方を説明し、理解を求めるのが望ましいのではないか。
(たとえば、園児数が多く、それに比して職員数が少ないような園ほど、理論上一人当たりの支給額が多くなることからも、「賃金が高い園が、良い園」とは言い切れない。といったことの理解促進を図る必要があるのではないか。)
4.最後に
近視眼的には、「経営情報の見える化」に伴い、『必須記載』の項目についてどう記載するかを検討し、『任意記載』の項目については公表するかしないかを判断する必要があるかと思います。一方で、長期的な視点に立つと、
近隣園との分析や、将来を見据えた人事制度・賃金体系の構築なども検討せねばならず、園の経営者にとっては、ますます経営的視点を求められる時代になってきたと考えます。
もっとも、近隣園との分析や、将来を見据えた賃金体系の構築などは、専門家の活用を検討せねばならず、一朝一夕にできる事柄でもないように思います。「経営」という大仰なものを考える前に、まずは、皆さんが今後どのような保育を提供していきたいのかを考える機会としていただければ幸いです。

