コラム・セミナー
保育施設における防災と減災
9月1日は1923年9月1日発生した関東大震災にちなんで「防災の日」と制定されています。
今年はそれに先立ち8月8日に日向灘を震源とする地震が発生したことに伴い、南海トラフ地震の臨時情報「巨大地震注意」が初めて発表されました。
また時を同じくして強い台風7号が発生し、日本列島を直撃する予報が出たことから日本中が防災ムードに包まれました。
児童福祉施設においては最低基準6条で「少なくとも毎月1回は避難及び消火に対する訓練を行わなければならない」とされていますが、
お預りする園児を、一緒に働く職員を守りつつ自分の命を守るため毎月の避難訓練について考えてみたいと思います。
目次
1.訓練いろいろ
避難訓練はねらいによって設定、内容、実施時間や規模、参加者が変わります。 ここでは、筆者が考える、8種類の避難訓練について、順にご紹介します。
(1) 月例の避難訓練(自然災害・火事)
監査で確認される定例の避難訓練は行事にも似た位置づけとなり、年度当初に年間計画に盛り込み、
避難訓練担当職員を任命後、PDCAサイクルの中で実施すべく各職員が計画を立案し、実行、記録、振り返りまでを担当します。
月例の訓練は年間を通じて基本の確認からイレギュラーな応用的訓練まで多様な内容で行います。計画は保護者にも告知し、課題意識を共有、防災機能向上に努めます。
□ 地震発生時
□ 台風・豪雨発生時
□ 火事発生時
(2) 遊びの中の避難訓練
筆者が在籍した施設では東日本大震災を機に水遊び時の訓練と散歩時の訓練を計画するようになりました。
体が濡れているときの初動、机がない場所での身の守り方、園外保育の場合、壁倒壊の恐れがある場所の確認を含め行先からの帰園経路の確認に役立ちます。
園から救援に向かう訓練も併せて行います。
□ 園外保育時
□ 水遊び時
(3) 引き渡し訓練
お子様を施設で引き渡す訓練、地域避難所等で引き渡す訓練です。
保護者にスケジュールを調整して参加していただくため、年間計画に記載します。
訓練内容は月例の訓練同様でも構いませんが、さらに停電を想定して非常電源を作動させ、防災食も体験することでよりリアルな訓練となります。
美味しくなっているとはいえ、防災食は食べ慣れていないと子どもはなかなか食べられません。
職員が慣れていないと炊き出しもスムースにできません。実際に行ってみるとカセットコンロの火力はとても心細いものと気づきます。
筆者の施設では園児・職員の3日分の食料を備蓄していましたが、それだけでは不安でした。
そこで、各家庭にお願いして、園児1人につき1箱「防災BOX」なるセットを作ってもらいました。
内容はお子様の飲み慣れた水分、食物(離乳食)、下着(オムツ)です。施設の備蓄も防災BOXの中身もローリングストック法で管理します。
□ 保護者の参加
□ マニュアルの見直しと確認
□ 保護者の連絡先をアップデート
□ 防災食・飲料水3日分の在庫・消費期限の確認と試食
□ 非常用電源、カセットコンロ、時計、テント、トイレ等備品の確認
□ 個人の防災用品(水分・食物・下着)の準備
(4) 連絡訓練
対職員、対保護者、対自治体等との連絡訓練も有効です。
メールやアプリ等複数の連絡手段を検討し実施します。また災害伝言ダイヤルは家族間の連絡にも役立ちますので、日頃より訓練メニューの一つに加えておくとよいでしょう。
□ 災害伝言ダイヤルで連絡を取り合う電話番号を決めておく
□ 171→連絡を取りたい電話番号を入力→「録音」「再生」
□ 録音時間30秒のうちに「名前」「現在地」「誰と一緒か」「安否」等を伝える
(5) 救護訓練
例えば、担架を使用した怪我人の搬送のように日常とは異なる応急処置や救急搬送が不可能な場合の対応も可能な限り実施してみると発見や気づきがあるかと思います。
看護師がいる施設でしたら看護師主導の訓練が良いかもしれませんが、この時に地域の消防署に協力を仰ぎ、CPR・応急処置をご指導いただき職員研修として訓練を行うと一石二鳥です。
□ 救急セット確認
□ 心肺蘇生法研修・応急処置研修の実施
□ 消防署との協働
(6) 消防署と合同避難訓練
上述しましたが、消防署に協力を依頼すると、水消火器を使った訓練、消防士さんが子どもにオリジナルの紙芝居等教材を読んでくださったり、 起震車や煙設備等特別な設備を使用した訓練を実施したりと災害訓練の幅が広がります。 もちろん緊急出動があれば不可能ですが、時間に余裕があれば記念撮影にも応じてくれます。 憧れの存在である消防士さんが消防車で来てくださるだけで子どもたちは大喜びです。 また地域の避難訓練に参加して、避難場所である学校の設備や備蓄品の確認や、地域における施設の役割を確認するのもよい機会となります。 なお、避難方法は自治体によって異なります。避難所・避難場所とともに確認しましょう。
避難の流れ|東京都防災ホームページ (tokyo.lg.jp)
(7) 抜き打ち訓練
担当職員と管理職のみで計画し、敢えて予告しない状態(抜き打ち)で訓練を行うと、大人にも子どもにも課題が明確となります。
主活動の時間帯に設定された予め告知されている訓練は心構えができており、子どもは反射的に机の下にもぐります。
しかし、活動と活動の合間の例えば手洗いを促しているタイミングであったり、園庭にいたり、散歩に向かう準備をしていたり・・・
そばに机がない状態でどう誘導するか、午睡時の無防備な時間の場合どう誘導するかは職員の応用力が試されます。
また職員の少ない延長保育時間や保護者が入れ替わり立ち替わり往来する送迎のピーク時に訓練を行えば、保護者にも避難訓練に参加していただけます。
一般企業に勤務されている保護者の方にとってはあまり馴染みのない避難訓練を体験、協力していただく良い機会となり、個人的にはこれはかなり有効と考えています。
確かに保育施設は防災機能が高く、外から見れば「安全で衛生的」と捉えられているかもしれませんが、施設でもできることとできないことがあり、
それを平時に伝えて体験することで、非常時に協働できる関係となります。
子どもとその保護者は基本的に地域の住民ですから地域を巻き込んだ防災協力体制構築につながるのです。
□ 活動と活動の間に訓練
□ 朝・夕の送迎時間帯に訓練
□ 延長保育の時間帯に訓練
(8) 不審者侵入訓練
近年は不審者対策だけでなく、騒音対策もあり、堅固な外壁で囲っている施設もありますが、一般的に未就学児施設は地域に開かれた設計のものが多いと思います。
警察の方によると「知らない人が無断で侵入した場合は不審者として認識する必要がある」との指導を受けました。不審者が黒いサングラスとマスク姿とは限りません。
お迎えを装った見知らぬ方、道を尋ねてきた方等に対しても違和感があれば、通報する必要があります。
そんな時、職員は正義感から不審者に立ち向かおうとはせず、一定の距離を保ち自身の安全を確保します。
不審者の気持ちを煽らないよう事前に決めておいた合言葉や通報ツールで周囲に異常を知らせ、通報担当者が警察に通報します。
警備会社と契約している場合は不審者訓練のサポートも行ってくれます。
プロならではの視点で施設の弱点を指摘してくれますので、対策も検討できます。
職員が臨機応変に連携、対応できるよう様々な設定で行うことをお勧めします。
□ 不審者侵入の合言葉
□ 知らない人は不審者という認識
□ 身の安全を確保
□ 警察や警備会社に訓練を依頼
2.避難訓練の流れ
ここからは避難訓練の計画から実施、振り返りまでの流れについてご説明します。
【前日まで】
前日までには、下記の流れが考えられます。
-
① いろいろな設定で訓練することが有効なので、毎月異なる職員が担当します。
担当者は前回反省点として挙げられた事項を課題として認識したうえで計画を立案し、管理職とともに検討します。 年度初めは、子どもも職員も保育室の環境に慣れておらず、職員の連携も訓練する必要があるため、 各自の役割確認、消火器の設置場所の確認等基本的な訓練から始めると無理がないでしょう。 - ② 週案には訓練を組み込み、日案を作成します。
- ③ 予告なしで行う訓練を除き、計画案を掲示し、職員各々が各自の役割、ハザードマップを確認します。
- ④ 消防署や地域の方等と共同訓練の場合、事前に連絡し、確認します。
- ⑤ 非常用持ち出し物品・電池等を確認し、放送機器、時計の時刻合わせを行います。
- ⑥ 消防署へ連絡、子ども・保護者へ告知します。
消防訓練を実施していますか? 訓練を事前に連絡していますか? 横浜市 (yokohama.lg.jp)
【訓練当日】
幼児さんには事前に導入、シミュレーションし、避難訓練を想定した日案にそって保育します。
【訓練中】
職員は各々の役割を実践します。乳児さんや要支援児さんを担当する職員はパニックになることを想定して必要以上に怖がらせないように配慮します。
【実施後】
適切な避難ができたか振り返りを行います。各々の反省点やその他の気づきを挙げ、会議等で共有し、次回の訓練につなげるよう記録に残します。
備品を確認し、必要であれば速やかに購入します。消防署の方はプロ目線でアドバイスをくださいます。
筆者の園では半期に1度「防災だより」を発行、訓練の内容や課題を掲載し、災害が発生した際、保護者の方にどう動いていただくか協力のお願いをしていました。
3.まとめ
毎月訓練を行っていると、幼児さんはもちろんですが、乳児さんでも乳児さんなりに職員(大人)の指示を理解して動けるようになります。
そして回を重ねるごとにパニックは少なくなり、咄嗟にどう動けばよいかが身についていく様子が目に見えてわかり、訓練の大切さを実感します。
保育施設が直面する大規模災害といえば、以前は台風と地震くらいでしたが、近年では大型低気圧による水害、竜巻、ミサイル、ウィルス性感染症の流行、
不審者侵入等そのリスクが多岐にわたるようになっています。
平時の保育においても管理者は常に判断を求められる立場にありますが、非常時には子どもだけでなく職員の命も預かる立場としての決断力が求められます。
各自治体では「非常災害時の保育所等臨時休園ガイドライン」が定められていますので日頃より確認しておくのはもちろんですが、
保育=命を預かる営みという基本に立ち返り、最終的には個々の状況に応じて柔軟な判断をしなければなりません。
厳しい状況下、一人で迅速に判断を下すのは難しいと思います。そんな非常時、共に考えられる職員、保護者、地域との関係が良好であれば連携につながり管理者も心強いでしょう。
地球環境の変化により、日本はもはや災害の発生を防ぐ「防災」という取り組みでだけでは対応しきれなくなっており、
災害は起きるという前提のもと被害を最小限にとどめるという「減災」の取り組みが欠かすことができません。
「もし~だったら」と想像力を発揮し毎月の避難訓練の内容をより充実したものとすれば、効果が期待できます。
皆さんの施設でも様々な想定の下、工夫を凝らした避難訓練を行ってみてください。
POINT
☑ 子どもたちがスムースに対応できるようになること
☑ 保護者と緊急時の対応の確認ができること
☑ 職員の意識と対応力を高めること
それぞれの専用フォーム、
またはお電話(0120-800-911)より、
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