コラム

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あなたの園は大丈夫?処遇改善等加算に係る給与計算の注意点

2024.11.30
保育施設における防災と減災

給与計算をされている方は、日々、計算が正しく行われているか神経を使われていることと思います。特に割増賃金や欠勤控除及び遅刻早退控除等の変動・計算式項目について、悩まれている方は多いのではないでしょうか。
第1章では私が見てきた中で誤りの多かった処遇改善等加算に係る割増賃金の計算方法を、第2章では処遇改善等加算に係る欠勤控除及び遅刻早退控除についての注意点を、ご案内いたします。皆さんの施設では適切な計算がされているか、ご確認頂ければと思います。

1.処遇改善等加算に係る割増賃金の計算方法

(1) 処遇改善等加算の支給方法、割増賃金を計算する際の基礎となる賃金

公定価格には処遇改善等加算が含まれており、月給内の手当や基本給、一時金として処遇改善等加算の支給が必要となります。制度の改正や新設も度々行われ、直近では、処遇改善等加算Ⅲが令和4年2月~令和4年9月までは臨時特例補助金として、令和4年10月からは公定価格に含まれるようになりました。
 処遇改善等加算Ⅱ・Ⅲは月額の手当として支給が必要となっており、すべての園で月給内の手当として支給されていることと思います。月給内の手当ですから割増賃金単価に含めることが求められていますが、最近、新設された経緯もあり、十分に理解が進んでいないからか、割増賃金の単価に含まれていない事例が散見されます。割増賃金の単価計算に含まれているか今一度ご確認ください(平成29年新設のものになりますが、処遇改善等加算Ⅱ等も割増賃金に含まれているかも合わせてご確認ください)。

(参考)割増賃金を計算する際の基礎となる賃金は何か。
厚生労働省のホームページに、「割増賃金の計算の基礎となる賃金は、原則として通常の労働時間または労働日の賃金のことであり、すなわち所定内労働時間内に働いた場合に支払われる賃金です。
ただし、(1)家族手当、(2)通勤手当、(3)別居手当、(4)子女教育手当、(5)住宅手当、(6)臨時に支払われた賃金、(7)1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金については、割増賃金の計算の基礎となる賃金からは除外します。」
と記載があります。詳しくは厚生労働省ホームページをご覧ください。

イメージ画像

参照:厚生労働省HP(割増賃金を計算する際の基礎となる賃金は何か。|厚生労働省)

(2) 支給方法により変わる割増賃金単価

以下に複数例、割増賃金の計算方法を示します。是非参考にしてみてください。

【例1】月給制の常勤職員に月額手当として支給されている場合
【例2】時給制の非常勤職員に月額手当として支給されている場合
【例3】時給制の非常勤職員に1時間当たり勤務した場合〇円と決め支給されている場合

【例1】
 <前提条件>
・年間所定労働時間2080時間
・(月給)基本給200,000円、特殊業務手当8,000円、処遇改善等加算Ⅲ手当9,000円
・割増賃金計算中の端数は切り上げ
<1時間当たりの割増賃金単価>
(基本給200,000円+特殊業務手当8,000円+処遇改善等加算Ⅲ手当9,000円)
×12か月÷2080時間≒1,252円×1.25≒1,565円(割増賃金単価)
※処遇改善等加算Ⅲ手当が含まれていない場合の割増賃金単価は1,500円
1時間残業をした場合には、割増賃金として1,565円の支給が必要になります。

このように、割増賃金単価の計算に際しては、処遇改善等加算Ⅲ手当を含めて計算をしてください。(処遇改善等加算Ⅲ手当のみ支給されているものを例示いたしましたが、処遇改善等加算Ⅱ手当が支給されている場合は、同様に割増賃金単価に含めて計算してください)

【例2】
 <前提条件>
・年間所定労働時間2080時間(週40時間勤務)
・時給1,000円、処遇改善等加算Ⅲ手当9,000円
・割増賃金計算中の端数は切り上げ
<1時間当たりの割増賃金単価>
時給1,000円+(処遇改善等加算Ⅲ手当9,000円×12か月÷2080時間)≒ 1,052円
×1.25≒1,315円(割増賃金単価)
※処遇改善等加算Ⅲ手当が含まれていない場合の割増賃金単価は1,250円

【例2’】
<前提条件>
・年間所定労働時間1560時間(週30時間勤務)
・時給1,000円、処遇改善等加算Ⅲ手当9,000円
・割増賃金計算中の端数は切り上げ
<1時間当たりの割増賃金単価>
時給1,000円+ (処遇改善等加算Ⅲ手当9,000円×12か月÷1560時間)≒ 1,070円
×1.25≒1,338円(割増賃金単価)
※年間所定労働時間に違いがある場合は、例2と同じ単価にならないことに注意

このように、時給の非常勤職員に、処遇改善等加算Ⅲ手当を月額で支給している場合には、処遇改善等加算Ⅲ手当を時給換算して、計算をする必要があります。

【例3】
 <前提条件>
・時給1,000円、処遇改善等加算Ⅲ手当50円/時間
・割増賃金計算中の端数は切り上げ
<1時間当たりの割増賃金単価>
時給1,000円+処遇改善等加算Ⅲ手当50円=1,050円×1.25≒1,313円(割増賃金単価)
※処遇改善等加算Ⅲ手当が含まれていない場合の割増賃金単価は1,250円

つぎは、欠勤控除等がある場合の計算はどうなるのか確認してみましょう。

2.処遇改善等加算に係る欠勤控除及び遅刻早退控除についての注意点

(1) 処遇改善等加算Ⅲ手当が含まれている場合の欠勤控除及び遅刻早退控除単価

【例】
<前提条件>
・年間所定労働時間2080時間
・(月給)基本給200,000円、特殊業務手当8,000円、処遇改善等加算Ⅲ手当9,000円
・控除単価計算中の端数は切り下げ
・年間の欠勤時間100時間
<欠勤控除及び遅刻早退控除の単価及び年間の欠勤時間100時間分の控除額>
(基本給200,000円+特殊業務手当8,000円+処遇改善等加算Ⅲ手当9,000円)
×12か月÷2080時間≒1,251円(欠勤控除及び遅刻早退控除の単価)
1,251円×100時間=125,100円(欠勤時間100時間分の控除額)

(2) 処遇改善等加算実績報告書の注意点

欠勤控除及び遅刻早退控除の単価に処遇改善等加算が含まれていること自体は、単価計算方法として誤っているものではありません。ただし、処遇改善等加算の実績報告を行う際に、欠勤控除及び遅刻早退控除の単価が含まれている場合は、控除された分は除いて報告する必要があります。
 (1)では、年間の欠勤控除額は125,100円となります。年間を通した当該職員の処遇改善等加算Ⅲ手当の支給額は9,000円×12か月の108,000円と実績報告を行いたいところですが、欠勤時間に処遇改善等加算Ⅲ手当分が含まれているため、その分を除いて実績報告を行う必要があります。

【欠勤時間100時間分に含まれる処遇改善等加算Ⅲ手当】
 処遇改善等加算Ⅲ手当9,000円×12か月÷2080時間≒52円(欠勤1時間当たりの処遇改善等加算Ⅲ手当分、端数切り上げ)
 52円×100時間=5,200円(欠勤100時間分の処遇改善等加算Ⅲ手当)
 処遇改善等加算Ⅲ手当の年間支給額108,000円-5,200円
=102,800円(処遇改善実績報告値)
※処遇改善実績報告時の事務が煩雑となることを懸念される場合は、欠勤控除及び遅刻早退控除の単価に処遇改善等加算を含めず計算することも考えられます。

3.まとめ

最後になりますが、給与計算に誤りが無いということは職員との信頼関係を保つ上での必要条件だと考えています。現行の給与規程に割増賃金及び欠勤控除、遅刻早退控除、その他事項が正しく記載されているか、給与計算ソフト内の計算式が正しく反映されているかを改めてご確認頂き、正しい給与計算を行ってくださいますと幸いです。

ライター紹介
安田将太
安田 将太 氏
社会保険労務士
株式会社 福祉総研
HP:https://fukushi-soken.com/
株式会社 福祉総研