事業売却を考える保育園経営者必見!こども家庭庁による「合併・譲渡ガイドライン」のポイント総まとめ
本記事は、保育園の事業売却を検討している経営者の皆様を対象に、令和8年3月31日にこども家庭庁より発表されました「保育所等の合併・事業譲渡等に関するガイドライン」の要点を整理して解説します。特に、ガイドライン策定の背景、その内容、そして今後の展望について深く掘り下げていきます。
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ガイドライン策定の背景と重要性
近年、少子化の進行や保育ニーズの変化、さらには保育士不足といった構造的課題を抱える保育園業界では、M&A(合併・買収)による事業再編が活発化しています。このような状況下で、こども家庭庁はM&Aを行いやすくするための手続きや指針を明確化し、保育現場の生産性向上を目指すべくガイドラインの策定を行いました。このガイドラインは、保育園経営者にとって事業の継続性や発展を考える上で極めて重要な指針となります。
もっとも、保育所等の運営は一般的な営利事業とは性質が異なり、単に収益拡大や規模拡張といった短期的視点のみで合併や事業譲渡を判断すべきではありません。こうした意思決定は、利用する子どもや保護者はもちろん、地域社会全体に広く影響を及ぼすため、その重要性を十分に認識する必要があります。保育は単なる事業ではなく、社会全体で子どもを育てるという公共的役割を担っていることから、再編の検討にあたっては、地域の実情や利用者の意向、教育・保育の質の維持・向上、さらには安定的な長期運営といった観点を最優先に据えることが求められます。
このような基本的な考え方を前提として、令和6年6月21日に閣議決定された規制改革実施計画では、「介護・保育・障害福祉分野における合併や事業譲渡等に関するローカルルールの防止」などが盛り込まれ、さらに令和8年3月31日に、こども家庭庁による「保育所等の合併・事業譲渡等に関するガイドライン」が発表されました。
このことは、令和6年4月に、内閣府・厚生労働省・こども家庭庁による「医療・介護ワーキンググループ」にて、私が登壇し発表を行った「介護・障害福祉・保育事業のM&A(法人譲渡・事業譲渡・合併)に関するご提案」も影響したものと考えます。
保育園・保育所業界の現状とM&Aの動向
業界全体の課題と背景
保育園は、0歳から5歳までの子どもを対象とした保育施設であり、共働き世帯の増加や女性の社会進出を背景に需要が高まってきました。しかし、近年では待機児童問題の解消が進む一方で、少子化の加速により、特に地方においては定員割れに悩む施設が増加しています。加えて、保育士不足は依然として深刻な課題であり、人件費の高騰や施設の老朽化に伴う設備投資の負担も経営を圧迫しています。
保育園M&Aが増加している理由
このような厳しい経営環境の中、保育園のM&Aは以下のような理由から増加傾向にあります。
【同業種間での事業規模拡大】
エリア拡大や施設取得、人材確保などを目的に、既存の保育園を買収する事例が増えています。特に保育士不足が続く中で、M&Aによる人材確保は大きなメリットとなります。
【他業種からの参入】
保育園市場の成長性や規制緩和を受け、株式会社や学校法人など他業種からの参入も活発です。M&Aは、新規参入時の初期負担を軽減し、効率的な事業開始を可能にします。
【後継者不足の解消】
多くの中小企業と同様に、保育園業界でも経営者の高齢化と後継者不在が深刻な課題です。M&Aは、廃園による地域への影響を避け、事業を存続させる有効な手段となっています。
合併・事業譲渡ガイドラインの全体像
本ガイドラインは、企業が合併や事業譲渡といった組織再編を実施する際に、適正な意思決定を行うための基本的な考え方と実務上の留意点を体系的に示したものです。具体的には、取締役会や経営陣の責務、少数株主やステークホルダーへの配慮、公正な評価プロセスの確保、利益相反管理の徹底、情報開示の充実といった多面的な要素が含まれます。また、案件の初期段階からクロージングに至るまでの一連のプロセスにおいて、独立性・客観性を担保するための外部専門家の活用や、適切な社内意思決定手続の整備も重要な柱となります。これにより、企業価値の毀損を防ぐとともに、市場からの信頼を維持・向上させることが目的とされています。
ガイドラインにおける主なポイント
ガイドラインにおける主なポイントは、次のように整理できます。
合併や事業譲渡を検討する際には、以下の観点から目的を明確にすることが必要です。
- 法人の理念や方針との整合性
- 地域における保育機能の維持・発展
- 利用者(保護者・子ども)の利益
- 職員の雇用確保
財務・法務だけでなく、以下を重点的に確認します。
- 保育内容・理念・運営方針
- 職員体制
- 保育の質
- 行政対応状況
調査結果をもとに、以下を総合判断します。
- 財務状況・収支見通し
- 地域の人口動態
- 人材確保可能性
- 保育内容の親和性
保育事業は認可が前提であるため、所轄庁への事前相談、認可・認定手続、条件調整が必須です。
保護者、職員、地域住民への説明が必要です。
弁護士、公認会計士、ファイナンシャルアドバイザーなどの外部専門家を活用し、法務・財務の観点からの客観的な検討を行います。
とりわけ、保育事業に特化したM&Aにおいては、業界特有の制度や規制、運営実態への深い理解が不可欠であるため、専門性の高い支援機関の活用が有効となります。例えば、保育M&A支援センターに依頼することで、保育業界に精通したアドバイザーによる適切なバリュエーションやマッチング支援、行政対応や許認可に関する助言を受けることが可能で、案件特有のリスクの洗い出しや、スムーズな交渉・手続の進行をサポート可能です。
案件の検討開始から最終決定に至るまで、一貫して透明で説明可能なプロセスを維持することで、市場の信頼を確保することが求められます。
これらのポイントを押さえることで、企業は公正で合理的な組織再編を実現し、企業価値の向上とステークホルダーからの信頼確保につなげることができます。
国の問題意識
国は拡大する事業承継ニーズに対して、自治体ごとにローカルルールが阻害している点を問題視しており、ガイドライン及び審査書類の標準様式を示し、浸透させてゆく事で、
事業者の負担軽減、自治体の事務効率化と判断の平準化、地域の保育体制の維持向上を目指しています。
今後想定される変更や展望
ガイドラインの策定により、今後は以下のような方向で制度運用の改善が進むことが期待されます。
ただし、これらは現時点で制度として確定しているものではなく、今後の運用や政策動向に左右される点に留意が必要です。
手続の標準化・簡素化
合併や事業譲渡に係る手続については、自治体ごとの差異の縮小や標準化が進むことにより、事業者の負担軽減や円滑な手続進行が期待されます。
第三者支援の活用の広がり
専門家や支援機関の活用については、ガイドラインでも推奨されており、今後は外部支援の活用がさらに一般化していくと考えられます。
相談体制の充実
行政や関係機関との連携の重要性が示されていることから、各地域における相談体制や支援機能の充実が進む可能性があります。
資金面の支援
合併や事業譲渡を通じた事業継続支援の観点から、今後、資金面での支援策が検討・拡充される可能性があります。
合併・事業譲渡の法的手続きと実務フロー
必要な行政手続き
保育園のM&Aにおける行政手続きは、園の形態(認可・認可外・企業主導型)や運営主体(株式会社・社会福祉法人)によって異なりますため、個別の確認が不可欠です。
認可保育園の事業譲渡:売り手は事業廃止、買い手は新規設置認可の申請が必要です。自治体との事前調整が不可欠です。
社会福祉法人のM&A:合併・事業譲渡ともに所轄庁の認可が必要です。社会福祉法に定められた理事会・評議員会の決議、債権者保護手続き、官報公告などの手続きが必要となります。
許認可・雇用等の主要注意点
許認可の引き継ぎ:株式譲渡や合併では許認可が包括的に引き継がれることが多いですが、事業譲渡では原則として再申請が必要となるため、時間と手間がかかります。
雇用契約:事業譲渡の場合、職員との雇用契約は自動的に引き継がれないため、個別に再締結が必要です。職員の離職を防ぐため、丁寧な説明と合意形成が求められます。
保護者への配慮:運営主体の変更は保護者に不安を与える可能性があります。M&Aの背景や今後の運営方針を明確に伝え、信頼関係を維持することが重要です。
価格の決まり方と評価ポイント
保育園の譲渡価格は、財務状況や規模、立地など様々な要素によって変動しますが、一般的な営利企業のM&Aと異なり、価格のみが意思決定の中心となるわけではありません。
特に社会福祉法人においては持分の概念がないため、合併が無対価で行われるケースや、事業譲渡においても無償で実施されるケースが一定程度存在します。
保育分野のM&Aにおいては、事業の継続性・保育の質の維持・地域への影響といった要素が重視され、価格はこれらと総合的に勘案される項目の一つとして位置づけられます。
とはいえ、価格も気になる部分であると思いますので、売却価格に影響を与える主な評価因子をご紹介します。
事業価値・財務状況:年間の営業利益の安定性、利益率、債務超過の有無、資金の余裕度、純資産の大きさなどが評価されます。収益性の高い園ほど高値がつきやすいです。
規模:定員数が多い大規模な保育園ほど、収益ポテンシャルが高く、譲渡価格も高くなる傾向があります。
立地:住宅街やマンションが密集する都市部、駅近くなど、子育て世帯が多く通園に便利な好立地の園は需要が高く、高値で取引されます。特に待機児童の多い地域ではさらに高値がつくことがあります。
運営主体:株式会社が運営する保育園は、株式譲渡が可能であり、企業価値評価(EBITDA倍率法やDCF法)に基づいて価格が算定されます。社会福祉法人の場合、株式譲渡ができないため、事業譲渡や合併が主な手法となり、対価の設定には注意が必要です。
人材:経験豊富な保育士の在籍状況、離職率の低さ、安定した職員体制は運営リスクが低く、買い手にとって魅力的な要因となります。
その他:独自の保育方針、評判、園舎や設備の築年数・改修状況なども評価に影響します。
価格は重要ですが、最優先でないことも多くあります。価格よりも継続性公共性が優先されるのが保育業界のM&Aの特徴の一つとも言えます。
評価を上げ、良い譲受先とマッチングするための工夫と準備
保育事業の譲渡においては、単に価格を高めることよりも、自園の理念や運営方針を理解し、継続的に運営していける適切な譲受先とのマッチングが重要です。その上で、以下のような準備が有効です。
財務状況の「見える化」: 直近3~5年分の決算書や収支報告書、補助金の内訳などを整理し、健全な経営状況を明確に提示できるように準備します。赤字の背景には具体的な理由を添え、将来の見通しも示すことが有効です。
園の強みや特色の明確化:入園率の高さ、独自の保育方針、地域との連携、保護者からの信頼、職員の定着率など、数字に表れない園の魅力を具体的にアピールします。
リスクの軽減:簿外債務や行政指導の履歴、施設の老朽化など、買い手にとってのリスク要因を事前に洗い出し、改善策を講じておくことで、売却価格への影響を最小限に抑えられます。
専門家の活用:M&Aアドバイザー、税理士、会計士など専門家チームを早期に組成し、適正な企業価値評価の実施、税務戦略の最適化、スムーズな交渉の進行をサポートしてもらいます。
専門業者・アドバイザー選びのポイント
保育園のM&Aを成功させるためには、適切な専門業者・アドバイザー選びが不可欠です。
保育業界への専門性と実績:保育園特有の許認可、補助金、行政対応に関する知識と豊富な成約実績を持つM&A仲介会社を選びましょう。
信頼性の確保:会計事務所などの専門的なバックボーンを持ち、法務・会計・税務に精通し、顧客の立場に寄り添える誠実なアドバイザーを選びます。
料金体系の透明性:着手金や中間報酬、成功報酬の有無など、料金体系が明確であるかを確認し、自社の規模や案件に適した会社を選定します。完全成功報酬制の仲介会社も増えています。
包括的なサポート: マッチングから交渉、契約締結まで一貫したサポートを提供してくれるかを確認しましょう。
まとめと今後の展望
経営者目線での意思決定アドバイス
保育園の事業売却は、単なる金銭的な取引ではなく、これまで築き上げてきた園の理念、地域社会への貢献、そして何よりも子どもたちと職員の未来に直結する重要な経営判断です。後継者不在、人手不足、経営の多角化など、様々な背景からM&Aを検討されている経営者の皆様にとって、このガイドラインは羅針盤となるでしょう。
重要なのは、検討段階に入った時点で早期に行動を開始することです。経営が健全で、園児数や職員の定着率が安定している時期こそ、より有利な条件で売却できる可能性が高まります。また、信頼できる専門家をパートナーに選び、客観的な視点から自社の価値を評価し、適切な戦略を立てることが成功への鍵となります。
ガイドライン改定・法制度動向への注意点
政府によるガイドライン改定や法制度の動向は、保育園のM&A環境に大きな影響を与えます。特に社会福祉法人のM&Aに関する手続きの明確化や、資金面での支援策は、今後の業界再編をさらに加速させるでしょう。常に最新の情報を入手し、変化する環境に柔軟に対応できるよう準備を進めることが大切です。
出典:こども家庭庁 保育所などの合併・事業譲渡などに関するガイドライン令和8年3月
エグゼクティブコンサルタント
ブティックス(株)へ入社後、介護用品通販ショップの運営責任者、有料老人ホームの入居者紹介事業の責任者を歴任。その後、CareTEXの立ち上げメンバーとして、様々な業界ニーズのマッチングに着手。
2015年にはM&A事業を立ち上げ、10年間で120件の成約実績を有する。

