コラム

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保育園のための人事評価制度とキャリアパス

2026.03.19
保育園のための人事評価制度とキャリアパス

1.なぜ今、保育園経営に人事評価制度が必要なのか

保育園経営において、「人」に関する課題はそのまま経営課題です。事業特性上、経費に占める人件費の割合は高く、職員の働き方や意欲は、保育の質や保護者満足度に直結します。しかし現場では、「誰がどのように園へ貢献しているのか」が整理されず、昇給や配置の判断が感覚的になりがちです。その結果、不満や離職といったリスクが積み重なっていきます。近年、弊社にも、人事評価制度の導入に関する相談が増えてきています。「評価基準が曖昧」「頑張りが処遇に反映されない」「職員へ説明できない」といった悩みは、多くの園で共通しています。現場が複雑化し、従来の“なんとなく”では立ち行かなくなっていることの表れではないでしょうか。
人事評価制度は、職員を管理するためのものではありません。園が人材を育て、力を発揮してもらうための「経営の土台」です。評価の軸が明確になれば、職員の行動は園の方針と揃い、対話や配置、処遇が一貫性をもちます。本稿では、こうした背景を踏まえ、「保育園のための人事評価制度」と、特に導入段階で最も重要となるキャリアパス設計についてご案内します。
キャリアパスが明確であれば、評価も運用も安定し、職員の成長の方向性が共有できます。人事評価制度づくりの第一歩として、ぜひ押さえていただければ幸いです。

2.保育園における人事評価の難しさ

私自身、保育園の人事評価制度を設計することは、一般企業のそれよりも難しいと感じています。その理由として、売上や利益で成果を測れる業種と異なり、保育の仕事は数値化が難しく、結果がすぐに表れない点が挙げられます。そのため評価の基準が曖昧になりやすく、「評価しようにも、何をどう測ればいいのか分からない」という壁にぶつかります。
さらに、保育園は職種が多様です。保育士、調理員、看護職、事務職など、それぞれ役割も専門性も異なり、同じ尺度で評価することが現実的ではありません。組織規模が小さい園ほど日常の人間関係が近く、評価を行うこと自体に心理的なハードルを感じる園長も少なくありません。

具体的には、多くの園で、次のような状況が見られます。

  • 昇給や賞与の判断が「なんとなく」になっている
  • 頑張っている職員とそうでない職員の差をつけられない
  • 注意や指導がその場しのぎになり、基準が残らない
  • 職員から「評価はどうなっていますか?」と聞かれると困る

こうした状態が続くと、職員側には不満や不信感が蓄積され、結果として離職やモチベーション低下につながります。表面上は穏やかに見えても、水面下では組織の不安定さが進行しているケースも珍しくありません。経営の視点で見れば、これは人件費を最適に使えていない状態とも言えます。
一方で、「公平・厳密な評価をしなければならない」と考えすぎることも、制度づくりを止めてしまう要因になります。保育園の人事評価に必要なのは、完璧な点数付けではありません。園として何を大切にし、どのような行動を評価するのかを明確にし、職員と共有することが重要です。この前提に立てば、保育園経営に合った評価の形は、十分に設計可能だと考えます。

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3.まずはキャリアパスを考えることから

人事評価制度をつくろうとすると、「評価項目をどうするか」「点数は何段階か」といった話から始まりがちです。しかし、経営に活かせる制度を目指すのであれば、最初に考えるべきなのは評価表ではありません。その前提となるキャリアパスを描くことが、何より重要です。
キャリアパスとは、「この園で働き続けた結果、職員はどのように成長し、どのような役割を担っていくのか」を示す道筋のことです。園としてどのような人材を育てたいのかが言語化されていれば、評価や、処遇との連動についても、一貫性を維持できるかと思います。

人事評価制度の土台となるキャリアパスをつくるには、次の3つのステップを踏むと、整理しやすくなります。

① 園の業務を洗い出す

まず行うべきは、園内で日々行われている業務を全て書き出すことです。たとえば、

  • お散歩時の安全確認・見守り
  • 保育日誌や連絡帳の記録
  • 保護者からの相談対応
  • 排泄・食事の援助
  • 児童票・指導計画の作成
  • 行事の企画・準備

などが考えられます。業務の“大小”を気にする必要はありません。

② 園の現状に即した、成長段階を設定する

次に、園の規模や職員構成、組織運営の方針に合わせて「どのような職員層が存在しているか」を整理します。
例としては、

  • 若手職員(概ね1年目〜3年目)
  • 中堅職員(5〜7年目)
  • 主任・副主任クラス

などが考えられます。

③ 業務(①)をタテ軸、成長段階(②)をヨコ軸にしてマトリックス化する

最後に、①で洗い出した業務リストをタテ軸に、②で決めた職員層をヨコ軸に並べ、「その段階の職員には、どの業務をどのレベルで担ってほしいか」を埋めていきます。たとえば『保育日誌の記録』であれば、

  • 若手:指導を受けながら書ける
  • 中堅:一人で正確に書ける
  • 副主任:園全体の記録の質を確認できる

といったイメージです。この作業によって、園が求める役割の見える化や、職員の成長イメージの共有
が一体的に進みます。そして、ここで完成したものが、まさに園の「キャリアパス」です。

キャリアパスは、人事評価のためだけのツールではありません。

  • 新人育成やOJTの流れ
  • 園内研修の企画
  • 1on1面談の話のネタ

など、さまざまな場面で活用できるかと思います。また、職員にとっても「この園で働き続ければ、こう成長できる」という見通しが持て、定着にもつながり効果も期待ができます。

4.人事評価制度は、園の未来を支える基盤になる

今日は、人事評価制度の概要と、制度の検討にあたってまず必要となるキャリアパスについて、説明をしました。キャリアパスを起点に人事評価の考え方を整理することで、園がどの方向に進み、どのような人材を育てていくのかが明確になるかと思います。ひいては、日々の保育の質向上のみならず、昇給や配置、人件費の使い方といった経営判断の安定にもつながるかと考えます。
さらに、明文化された評価基準が共有されるようになると、職員は「なぜこの処遇なのか」を理解しやすくなり、不満や不安が生じにくくなります。その結果、離職リスクは抑えられ、採用時にも「この園で描ける成長の道筋」を伝えられるようになるのではないでしょうか。
人事評価制度は一度つくって終わるものではなく、園の置かれている状況とともに見直していくものです。キャリアパスを軸とした評価の仕組みは、職員が安心して働き続けられる環境をつくり、園の未来を安定的に支える基盤につながっていくものと考えます。

ライター紹介
多田善雄
多田 善雄 氏
社会保険労務士・中小企業診断士
株式会社 福祉総研 代表取締役社長
HP:https://fukushi-soken.com/
株式会社 福祉総研