保育の2025年問題?倒産・廃業の前にM&Aという選択肢
近年、保育園の倒産・廃業が増加傾向にあり、2025年はそのピークを迎えていると報じられています。保育業界に携わる皆様にとって、これは他人事ではないはずです。今回は、保育M&A支援センターの視点から、なぜこのような事態が起きているのか、そして事業を手放す前に検討すべき選択肢について保育M&A支援センターのアドバイザー目線でお伝えします。
保育の2025年問題とは?
保育業界では「2025年問題」と呼ばれる構造的な課題が注目されています。これは、少子化の影響により保育施設の利用児童数が2025年を境に減少に転じると予測されていることに起因します。定員割れや収益悪化が進み、閉園や統合が加速する可能性が高まっています。
実際、今年に入ってから保育園の倒産・廃業件数は過去最多ペースで推移しており、業界全体が大きな転換期を迎えていることがうかがえます。
2025年上半期の保育園の倒産・廃業件数は、前年を大きく上回るペースで推移しており、過去最多を更新する可能性が高まっています。
出典:帝国データバンク「保育園」の倒産・廃業、 3年連続で増加 2025年は過去最多ペース
保育施設の整備が全国的に進められてきた一方で、近年は事業者の撤退が相次ぎ、業界全体が選別のフェーズに入っていることがうかがえます。特にこの3年間は、保育事業の継続が困難になるケースが増加傾向にあり、2025年はその流れが加速していると見られます。
保育園の倒産・廃業が増える背景
過去最多ぺースで倒産・廃業が起こっている保育業界ですが、原因は何なのでしょうか?原因として考えられるものを4つご紹介します。
- ① 運営コストの上昇
- ② 園児獲得競争の激化
- ③ 保育士不足
- ④ 出生率の著しい低下
① 運営コストの上昇
昨今の物価高で保育園運営にかかる諸経費が高騰していることが原因として考えられます。給食などを提供する施設では、食材価格が高騰したことでコスト高という問題が発生しており、コスト面で円滑な運営が困難となっています。
② 園児獲得競争の激化
保育の無償化により利用希望者は増えましたが、施設数の増加と少子化が重なり、園児の奪い合いが起きています。どのような教育プログラムがあり、児童にどのような体験をさせてあげられるかなど、他施設との差別化を図らなければならず、保育園を選ぶ時代に対応していかなければならなくなっています。
③ 保育士不足
人手不足はどの業界でも問題となっていますが、保育業界でも同様です。低賃金で、重労働であることから募集をかけても人が集まらないことに悩んでいる施設も少なくないでしょう。保育士には配置基準がありますので、その基準を満たすことができない園は、行政からの指導や認可取り消し・事業停止命令が出されるリスクがあり、閉園するしかない状況に追い込まれてしまいます。
④ 出生率の著しい低下
去年1年間に生まれた日本人の子どもの数は68万6061人で、前年より4万1000人余り減少し、統計を取り始めて以降、初めて70万人を下回ったことが厚生労働省の調査で分かりました。1人の女性が産む子どもの数の指標となる合計特殊出生率は去年1.15となり、これまでで最も低くなっていることも、保育事業所が倒産・廃業している原因の一つだと考えます。
出生数が68万人台になるのは国の想定よりも15年ほど早く、予想を上回るペースで少子化が進んでいることが分かります。第一次ベビーブームの1949年と比較すると4分の1近くまで減少しています。一方で、去年1年間に死亡した人は過去最多となり、亡くなった人の数が生まれた子どもの数を上回る「自然減」は、91万9237人(前年比+7万509人)と過去最大となっています。こうした状況が保育事業の厳しい運営を加速させているのではないでしょうか。
出典:厚生労働省 令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況
倒産・廃業のリスクとは
園を廃業する際に考えるべきリスクがいくつかあるのでご紹介します。
- 突然の閉園により、園児が通える保育施設がなくなる。
- 特に都市部では空き枠が少なく、転園先が見つからず「保育難民」化するケースも。
- 保護者の就労継続が困難になり、家庭の生活基盤に直撃する。
- 倒産により保育士や職員が一斉に職を失い、地域の保育人材が流出。
- 保育士不足が深刻な中、再配置が難しく、他園の負担が増加。
- 離職による保育の質低下が、地域全体の保育環境に悪影響を及ぼす。
事業継続が難しくなってもすぐ廃業できるわけではなく、しっかりと順を追って準備を進めていく必要があります。そのためギリギリまで一人で抱え込むことはお勧めしません。少しでも今後の園運営に不安を感じられたら、専門家に相談することをおすすめします。
保育業界の今後の展望とM&Aの可能性
先ほど述べたリスクを回避する手段として、M&A(事業譲渡や売却)を活用する動きが保育業界でも活発になってきています。当センターでは年間400件もの保育事業売却に関する問合せが来ており、その数は年々増加しています。
また今すぐに廃業するつもりはないが、後継者不在や今後の運営不安などを感じている事業者からもご相談をいただいています。M&Aによる事業承継や再編は「社会的責任を果たす選択肢」として位置づけることができます。「倒産して終わり」ではなく、「M&Aを選択することで次世代への橋渡し」ができれば、事業者にとっても利用者にとっても良い展開を迎えられるのではないかと思います。
M&Aを活用すれば、先ほどご紹介したリスクも回避することができるのです。
園児の継続通園が可能:事業譲渡により園が存続すれば、園児は環境を変えずに通い続けられます。
職員の雇用維持が可能:買い手が職員ごと引き継ぐことで、雇用が守られ、保育の質も維持されます。代表者本人についても、継続勤務を希望すれば園から離れることもなく見守り続けることも可能です。
まとめ
今回のコラムでは、保育の2025年問題を読み解き、保育事業者が倒産・廃業を考える前に選択肢として持っていてほしいM&Aについて解説してきました。多くの経営者にとってM&Aは初めてのことだと思いますので、売却に悩まれている経営者の皆様にとって、このコラムがM&Aを考えるきっかけになりましたら幸いです。その際はぜひ保育M&A支援センターへご相談ください。
ブティックス(株)へ入社後、介護用品通販ショップの運営責任者、有料老人ホームの入居者紹介事業の責任者を歴任。その後、CareTEXの立ち上げメンバーとして、様々な業界ニーズのマッチングに着手。
2015年にはM&A事業を立ち上げ、10年間で120件の成約実績を持つ。
