保育業界にICT化は馴染まない?保育施設におけるICT化の現状と導入方法
どの地域にも昭和初期から開園している保育施設があると思います。そんな地域のランドマーク的な園の2代目、3代目は「子どもが好きだから」「地域に貢献したいから」といった創立者の志を現代につなげつつ、創業当時とは異なる職員の確保・定着、収支のバランス、保護者との信頼関係の構築、行政対応に加え、近年は少子化による園児の募集、労働環境の改善といった経営課題に直面していらっしゃることでしょう。保育施設は、もはや単に「子どもを預かる場所」にとどまらず、社会の縮図のような様相を帯びています。
今回は単なる「便利ツール」にとどまらず、保育の質や職員の働きやすさ、園全体の経営改善につながる可能性、現場の持続可能性を高めるICTの活用について考えてみたいと思います。
保育のICTとは?
職員の事務作業の負担を減らすことで子どもと向き合う時間を増やし、質の高い保育環境を構築することを目的とし、保育園や幼稚園などで発生するさまざまな情報をデジタル化し、業務の効率化を図る取り組みを指します。

保育業界にICTは馴染まない?
永く、保育は人の手によって支えられ、成り立ってきた歴史があります。その過程では、例えば、連絡帳は手書き、お便りも手書きといった人の手による「温かさ」が「よい保育」という評価基準が定着していました。確かに「この字は▲▲先生だ」などと、その人を思い浮かべながらお便りを読むことで心が温かくなったこともありました。なので、初めてワープロによるお便りを発行したとき、園の内外からの反応は「冷たい」というものが大多数でした。また、筆者が保育界に飛び込んだ約25年前、時代は平成でしたが、「なぜ~なのですか」という素朴な疑問に対して現場からの回答には必ずと言ってよいほど「うちはずっと~」という枕詞が付いていました。それはそれで経験に基づく理由がなかったわけではありませんが、効率よりも「慣習」や上述した「温かみ」といった抽象的なものによるものが重視されており、驚いた記憶があります。
保育界がICT化に後れをとることになった原因の根底にあるものは、この感覚であると筆者は推測します。
でも、おそらくその大多数の方も実はワープロの文字を「読みやすい」と思っていたはずです。もし、昭和から平成にかけて行われていた手書きのお便りを全家庭にプリント配布するといった流れを令和の今、行うとすると、もはや違和感がありませんか?プリントを配布することはエコの観点からも一考の余地があります。
老若男女がスマホを使う時代、ペンで文字を書く機会は激減しました。
作文が的確で、短時間でお便りを作成でき、一瞬で保護者に届けられたら、一連の流れが大幅に短縮されます。実際、現場に人手があれば可能となることがたくさんありますが、人手不足ランキングの上位に位置する保育業界の採用は容易ではありません。今、採用という不確実なご縁に期待するより、先ずは事務作業をICT化することで、「子どもにかかわる時間」を最大限捻出し、「温かさ」は子どもと保護者へのまなざしに残し、業務の効率化によって整った労働環境をアピールポイントとして人材定着、人材獲得につなげることは課題解決の1歩として有効ではないでしょうか。

実際の導入状況はどうなっているのか?
保育業界に馴染むことが遅くなったICTですが、実際の導入状況はどうなっているのでしょうか。2022年12月~2023年1月に行われたオンラインアンケートによると、何らかICTツールを導入している園は8割以上にのぼることがわかりました。
| 回答 | 割合 |
|---|---|
| ICT等を利用している | 81.3% |
| ICT等の導入・利用なし | 17.6% |
| 不明 | 1.2% |

同アンケートでは、導入している具体的なICT機能についても調査が行われました。
導入されている割合の高いICT機能上位10種類と、その導入割合は次の表のとおりです。
| 導入しているICT機能 | 導入している割合 |
|---|---|
| 職員が受講する研修をオンラインで実施 | 72.8% |
| 登園・降園管理 | 71.3% |
| 日常的な保護者へのお知らせや緊急時の保護者への連絡のデジタル化 | 68.4% |
| 指導計画の作成 | 58.0% |
| 写真販売のデジタル化(ウェブ閲覧・販売) | 55.9% |
| 出席簿 | 53.7% |
| 職員の出退勤管理 | 51.8% |
| 保育日誌の作成 | 50.6% |
| スマートフォンやタブレット型端末による子どもの写真の撮影 | 50.3% |
| 身体測定などの健康管理記録のデジタル化 | 50.1% |
解決したい課題と選ぶべき機能とは?
保育関係の展示会に出かけてみると、一口にICTツールと言っても、多くの業者から様々な特徴のツールが展開されていることが分かり、一層悩みます。一度に全部の課題を解決できれば理想ですが、それは難しいと思います。 ご自身の園で第一に取り組むべき課題を抽出し、優先順位を決定したのち、ツールを選びましょう。業者は快くプレゼンしてくれますが、実際に導入している園に伺ってみるとよりリアルな感想も聞くことができます。
導入のステップと導入後のポイントを解説!
① 導入準備と環境整備
・機器の購入、設備工事と費用の工面の段階になります。利用できる補助金がないか、自治体や業者にも問い合わせます。イニシャルコストだけではなく、サービスの月額料金等ランニングコストも重要です。忘れがちな細かい出費として、端末の保護ケースやフィルム貼り、端末の補償やウィルス対策等があります。合計すると意外と高額になりますので、ご注意ください。
・園内でツールを活用するには、Wi-Fiの整備が欠かせません。施設内を効果的に網羅するために、業者との折衝が必要です。
・機器の台数は数が多いほど便利ですが、同時に管理の問題も生じます。タブレットにするかスマホにするか、使用する目的にもよりますが、運用のルールも決めなければなりません。

参考:R7概算要求(保育政策課) p.18~21
② 体制整備∼導入
・園内にプロジェクトチームを編成する若しくは担当者を任命し、運用ルールを決定したり、意見を集約して解決したり、業者の問い合わせ窓口を担ってもらいます。
園内にもデジタルネイティブが多くなってきたと思います。新卒の職員は養成校で授業も受けています。IT用語に通じている方、得意でなくても好きな方が適任です。行事のリーダーは経験者が担うことが多いと思いますが、思い切って経験2~3年のデジタル機器を扱うことに抵抗感のない職員を任命してもよいかもしれません。
・選定したツールの業者による説明、研修を受けます。
・保護者への説明を行い、必要に応じて同意を得ます。
ここまでを6ヵ月~1年で行う園が多数です。あとは、園のご事情と機動力によってアレンジします。

③ 導入後~効果の検証
・毎月1回程度は各クラスの運用の仕方や効果、問題を共有します。
・1年くらいは実験的な運用になるでしょう。実際に利用した感想を職員、保護者にヒアリングします。
・例えば、保護者への電話連絡の頻度に変化がないといった効果が感じられない点があった場合、適宜、業者に相談して運用ルールを見直す等検討します。

おわりに
かつて、虐待が話題になった時代、保育室に監視カメラを導入し、保護者が外出先からいつでも保育室を確認できることが先進的取り組みとして話題となりましたが、現場からは「私たちを信頼していないのか」と否定的な反応が大多数でした。しかし、今では安全管理や事故防止、また事実確認の観点から肯定的にとらえる雰囲気があります。コロナ禍を経て、否応なしにデジタル機器を使用せざるを得ない場面も多くなったことで、意識も変化しています。

本文を読まれる方の中には園見学対応時に入園希望の保護者の方から「連絡帳はアプリですか」と質問を受けたことがあると思います。保育施設の競争激化により生き残りをかけた他園との差別化が必要であるなか、アプリ導入は、差別化とは言えなくなる、ICT化はもはや標準となる時代がすぐそばまで来ています。でも、今なら間に合います。デジタル機器を園の方針や課題に合わせて活用することで、働きやすい環境づくりや保育の質の向上につなげることが大切です。ぜひ、皆様の園でもご検討されますことをお勧めいたします。
